愛の歌、あるいは僕だけの星
「由美、こいつどうする?こういうのに限って案外しぶとかったりするんだよねえ」
ひとりが、かかとの潰れたローファーで亜矢子を蹴る。鳩尾に入り、苦しそうにせき込む亜矢子を見下ろして楽しそうに笑う。真新しかった制服は泥だらけだ。ぽたり、ぽたりと、涙が熱く腫れた頬をすべり、地面にいくつも円を描く。
「ねえ、あんたさ、銀也のこと狙ってんの?」
由美、と仲間内に呼ばれた女が、亜矢子と目線を合わせるために腰を落とす。
「……そんなこと」
口を開いた瞬間、もう一度、容赦なく頬をひっぱたかれる。思わず頬を押さえれば、ぬるりとした嫌な感触があった。彼女の爪が、どうやら亜矢子の頬に傷をつけたようだ。指の腹に薄くついた血をじっと見つめる。
「嘘、嫌いなんだよね。好きでしょ」
「……カッコいいとは、思います」
「銀也は、誰のものでもないんだから。これ以上不必要に近づいたら、二度と表に出られないような姿にしてあげる」