愛の歌、あるいは僕だけの星
生徒会長のためにあつらえられたデスクで、ノートパソコンのキーをパチパチと打ち込んでいる銀也がいた。
いつもはかけていない黒縁メガネをかけている。前髪が目元を隠していて、どんな表情をしているかはよくわからない。けれど、先ほどの蒼井との会話から、日中ほど機嫌は悪くなさそうだ。
「さて……、と」
一呼吸置き、ぶちりと、制服のブラウスのボタンをふたつほど引きちぎった。
がたん!
扉に手を掛け、体当たりするように大きな音をたてる。
「……誰かいる?」
中から、銀也の声がする。不思議と、心臓がどきどきと鳴る。無言のまま、銀也の反応を伺っていれば、扉の奥でイスから立ち上がる様子が見えた。
「もしかして、夏?」
銀也の口から出た名前に、思わず「えっ」と声を漏らした。誰だろう、夏って。明らかに女の名前だ。しかも、どういうわけだろう。ずいぶんと親しげに聞こえる。
がらりと扉が開いた。
「ぎ……、銀也君……」
泥だらけで、制服も乱れた亜矢子のすがるような視線に、銀也の瞳が驚きに大きく見開かれた。