愛の歌、あるいは僕だけの星
ただ、何も考えられなくなるくらいに、溺れてしまえればよかった。
それなのに。暗い道を急ぎ足で駆け抜けていくような焦燥感、なにか、悪いことをしてしまったかのような罪悪感。そんなふたつの感情が邪魔をする。まるで、ゆっくりと絡みつくように、もがいてももがいても締め付けてくるのだ。
「ね、銀也くん……、私の名前、呼んで?」
声が、まるで遥か彼方から聞こえるようなおかしな感覚に囚われる。
おかしい、変だ。いったい、どうしてしまったのだろう。熱に浮かされながらも、思う。名前って、何だろう。一体、誰の名前を。
頭の中が真っ白だった。
まるで、白昼夢をさまようように、何もかも実感がない。ここが、どこかも分からない。誰といるのかも曖昧だ。
『なまえ、よんで』
その声が頭の中で繰り返し響く。
自然と、口から漏れる。言おうだなんて思っていないのに、溢れるように声が言葉として紡がれる。