愛の歌、あるいは僕だけの星

彼女の親友



「やっと、集計が終わったわ……」

 神谷レンゲは、小さく溜息をつきながら放課後で人気のなくなった廊下を歩いていた。親友である如月夏の仕事を引き継いで、二ヶ月ちょっと。ようやくクラス委員長としての仕事にも慣れてきた。

「ん?」

 ぱたぱたと、廊下を走るような音がした。なんだろうと、首を傾げた瞬間、曲がり角からひとつの影が飛び出してきた。

「きゃ!」

 どんと、出会い頭に衝突した。その衝撃で、持っていた資料の束が廊下一面に散乱する。

「ちょっと、気をつけてよ!」

 文句をいいながら、目の前の人物を見て驚いた。「亜矢子!?」思わず、彼女の名前を呼ぶ。いつもの、可憐な姿とは打って変わった様子に息を呑む。

「ど、どうしたの!その格好……」

 制服は泥だらけだった。そのうえ、ブラウスのボタンは無惨にも引きちぎられ、足や腕には擦りむいたような傷もある。何より痛々しいのは、真っ赤に腫れ上がった頬だ。
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