愛の歌、あるいは僕だけの星
「ねえ、すぐそこの廊下亜矢子に会ったんだけど。もしかして、さっきまでここにいたの?」
そう問えば、藤原は少し気まずそうに目を泳がせた後、すぐにいつもとなんら変わらない笑みを浮かべる。
「いたよ。神谷さんこそ、俺に何か用?」
何てことないように、そっけなく感情をこめずに藤原は言う。それに溜息をついて、持っていた資料を手渡した。
「藤原が、集計早くしろって言うからわざわざ放課後残ってやってたんじゃない。忘れたの?」
そうだっけ、なんて言いながら、藤原がぱらぱらとそれをめくってデスクへと置いた。
「ありがと。これで、蒼井にどやされないで済むわ」
こんなにも近いのに、まるで対極にいるんじゃないかというくらいに彼との距離が遠く感じる。まったく、何を考えているのか読めないのだ。
「亜矢子、泥だらけだった」
「……そうだな。けど、なんで俺に言うの?」
藤原の態度が、なんだかしらないけれど心底腹立たしい。胸ぐらつかんで、その飄々とした雰囲気をぶち壊してやりたいほど。