愛の歌、あるいは僕だけの星

『ねえ!』

 ひやりとした、妙な感覚が銀也の掌を覆う。驚いて見れば、如月が手を伸ばして銀也に触れていた。

「……何」

『藤原君、わかってる? 今、相手の子のこと凄く傷つけたんだよ。なのに、なんでそんな風になんでもないって顔でいられるの』

「は? 何がいけないんだっての。あいつが勝手に俺に期待して、勝手に失望しただけの話だろ。ほんとに、そういうのうざいんだけど。それなのに、俺が悪いわけ?」

 如月が、愕然とした表情で銀也を見上げた。
 彼女の言いたいことがちっとも理解出来ない。そっと首を傾げれば、如月は諦めた様子で小さく俯いてしまった。

「わからない。なんで、如月があの女の為に怒んだよ? あの子が勝手に近づいてきて、あの子がして欲しいと言ったことをしてあげただけだ」

 いつだってそうなのだ。最低だとか、最悪だとか、分かっていて近づいてくるのはいつも向こうなのに。如月は、そんな銀也を前に諦めたような溜息を吐いた。

『そっか……、そうだね。あたしが今何を言ったとしても、藤原君にはきっと何も届かないと思う。でも、藤原君。いまの藤原君は、やっぱり最低野郎だよ』

「そりゃどーも。知ってるし、そんなこと。嫌だったらさっさと出て行けよ。部屋に幽霊いるって、薄気味悪いし。喜んで送り出してやるよ」

 にこりと笑って見せれば、如月は銀也のことを思い切り睨みつけながら『ふんっ』と鼻を鳴らして押し入れに閉じこもってしまった。
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