愛の歌、あるいは僕だけの星

 ほんの僅かな一時に見た、ただの夢。
 鼓動をたてる心臓を押さえ、ほっと胸をなで下ろした。

 よろよろと立ち上がり、ひとまず何か食べようと冷蔵庫を開ける。

「なんもないし」

 この五日間で、食べ物はすっかり底をついていた。
 相変わらず体調は最悪で、それになんだか。

「……気持ち悪い」

 うっと口元を押さえながら、よろりとふらつく。胃を押さえながら牛乳パックにそのまま口をつければ、「すっぱ!」とその酸味に慌てて吐き出す。

「な、なんだ!?て、賞味期限切れてんじゃん……」

 踏んだり蹴ったりで涙目になりながら、流しに捨てる。
 買い出しに行かなければ、もはやこの家には水と調味料しかない。なんだか情けなくて、思わずうなだれた。

 シャワーを浴びて、新しいTシャツにジーンズをはく。夏を間近に控えた気温は高い。じりじりと肌を焼くような強い日差しに顔をしかめた。

 ふと、思い出したようにスマホをいじる。呼び出したアドレス帳から、なんとなしに夏の住所が登録されているのを見た。
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