愛の歌、あるいは僕だけの星
「この子……、もしかして夏の彼氏だったのかしら?」
『ちがーう!お母さん、それは誤解だから!!』
抗議が届くはずもなく、母は銀也を背負ってよたよたと家の中へと入っていった。ぐったりと意識のない銀也を夏の部屋に運び、ベッドへと寝かせ、冷たいタオルで首もとから冷やしていくのをじっと見守る。
眠っているのに、どこか追いつめられたような表情を浮かべる銀也に、顔が曇る。時折苦しそうに呻き声を漏らしながら、一向に目を覚ます気配はなかった。
そうして、十八時を過ぎて父親も帰ってきた。システム会社に勤める父は、シフトによって帰る時間帯もバラバラだ。今日は、どうやら随分と早く上がれたようだった。
「……で、どうなんだ?彼の様子は」
「寝不足と、後は夏風邪ね。目の下、すごいクマが出来てるの。連絡したくても、名前が分からなくてね。たぶん、夏に会いに来てくれたんじゃないかなとは思うんだけど。スマホに、うちの住所が表示されてたから」
「そうか。せっかく訪ねて来てくれたんだ。ゆっくりさせてあげればいい」
そんな寛大な父の言葉に、母は微笑みながらうなずいた。