愛の歌、あるいは僕だけの星

(なあ、気づいてる?そんな感情を、俺にくれたのは、夏っていうこと)

 憎たらしいと思ったし、やっかいなものを掘り起こしてくれたなあとも思った。それをするだけして、ほったらかしにしようだなんて、酷い女だと恨みさえした。けれど。

 こみ上げるもの。
 見られたくなくて、銀也は顔を上げなかった。隠したつもりだったけれど、それはすぐに夏にばれてしまったらしい。

 身体が、震えてしまったから。
 嗚咽を上げないように我慢したのに、夏は小さな子供でもあやすかのようにゆっくりと銀也の背中をさすった。

 涙が、床に小さな染みをいくつもつくった。

(知ってるよ……、俺が、怖がっていたもの)

 それは、とてもあたたかい。
 痛みにばかり敏感で、あたたかさには鈍感だ。

 やっかいだな、本当に。けれど、知らなかった頃にはもう、戻れない。波は、とっくに枷をはずしてしまったから。気づかないふりなんて、もう出来そうもない。
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