愛の歌、あるいは僕だけの星
校舎の屋上の、給水塔の上にのぼってゆっくりと身体を伸ばす。
まさか、こうしてまた青い空を見上げることが出来るだなんて思わなかった。何しろ最後に見たのは、赤一色だった。燃えるような夕暮れの赤に、後は。
嫌なものを思い出しそうになって、如月はふるふると首を横に振って意識を霧散させる。
(あたしが、まだこの世界に遺していること)
うーん。
頭をひねって考えて、けれど思い当たることはやっぱり何もないのだ。銀也とあの場所で出会う前、夏は一度だけ自分の家に帰っていた。
自分の名前を呼びながら、泣き疲れて憔悴している母と、そんな母を必死に抱き留めて瞳を閉じる父がいた。写真にうつる自分だけが満面の笑みを浮かべているのに酷い違和感を感じた。
こんな場面を見るくらいなら、やり残してしまったことなんてどうでもいいからさっさと消えてしまいたかった。
何て親不孝なんだろう。
大好きな両親に、こんなにも辛い思いをさせてしまっているのは他でもない自分なのだ。心臓がぎゅうと握りつぶされるくらい、苦しくて仕方なかった。
涙を拭ってあげることも出来ず、ただ傍で見ていることしか出来ないなんて、あまりにも不幸だ。悲しむ両親の姿を見ることがただ辛すぎて、その日以来、家には帰れないでいる。