愛の歌、あるいは僕だけの星
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アパートの階段を、カンカンと音を立てながらのぼっていく。手すりを掴みながら二階まで上がり、奥から二番目の自分の部屋までのろのろと進んでいく。
部屋の前まで行き、ドアの横にある窓から光が漏れていることに心底がっかりして、大きな溜息をついた。がちゃりと、安っぽい鍵を開けて、疲れた身体を引きずるようにして部屋に入る。ドアを閉めて、そのままリビングへ進む。リビングというか、この部屋は1Kだからキッチンとバスルームとトイレが両隣に並ぶ廊下を抜ければ、つきあたりにもう一部屋あるだけだ。
仕切になっている硝子戸を引けば、光に照らされた部屋の中、如月が寝っ転がってテレビを見ていた。
『あ、藤原君おかえりー』
よっこらせと、身体を起こした如月がにこりと笑ってそんなことを言った。どうしたもんかな、そう思いつつ鞄をベッドへと放り投げる。
「……ただいま」
なんで、自分は普通に挨拶を返しているんだろう。
まずい流れになっているのは確かだけれど、なんというかたったそれだけのやり取りが妙にこそばゆくて仕方ない。何せ、銀也は独り暮らしが長いのだ。誰かに出迎えられるというのは、正直慣れていない。