愛の歌、あるいは僕だけの星
困っている銀也のことをいち早く察したのだろう。蒼井は、にこりと笑って先ほど叩かれた頬にそっと撫でる。
「痛そう。赤くなってる」
「げ、ほんとですか? 思いっきりひっぱたかれたからな……」
「傷もついてないし、それなら冷やしとけばすぐ腫れはひくから」
「……なんか会長、慣れてそうですね」
「神谷さんがきちんと爪を整えてることに感謝すること」
蒼井は、なぜだか申し訳なさそうに神妙に頷いて、ついと視線を空へと投げた。
「俺、実はレンゲとつき合ってたんです。今年の春まで」
つい先ほど、夏から聞きました。とは言えるわけもないから、それらしく「え、そうなんだ」と驚いてみせる。
「付き合ってたってことは、もう別れたってことなのに。なんで叩かれるわけ? 他人でしょ」
「……別れたからって、すぐに他人になれるわけ、ないでしょう」
蒼井が、ぽつりという。そんなふうに、寂しそうにする理由が、よくわからなかった。それが、少しだけ残念に思う。