愛の歌、あるいは僕だけの星
『いた』
夏が駆け出すのを追いかける。夏の名前を呼ぼうとすると、彼女は振り返って口元に人差し指を当てた。それに気づいて、足音を立てないようにして、茂みからのぞく。そこには、木々に囲まれた小さな湖があった。月の光をうつす水面が、きらきらと揺れている。彼女の言うとおり、とても綺麗な場所。そこに、ふたつの人影があった。
「よかった」
そう言ったのは、蒼井だった。
「……もしかして、探しに来てくれたの?」
「どういうつもり? こんな遅くに、こんなところでひとり」
さわりと風が吹き抜ける。神谷の、ひとつにまとめた長い髪がふわりと揺れる。
「心配したんだぞ。三原さんも、会長も、……俺だって。みんな心配してるんだ」
「……ごめんなさい。ただ、色々考えたかったの。ひとりでいられる場所が欲しかったのよ」
そう言って、神谷はゆっくりと腰をおろした。その横に、蒼井も座る。しばらくの沈黙の後、「ねえ、蒼井」と神谷が口を開く。