愛の歌、あるいは僕だけの星
しばらく、蒼井と神谷は、空の月が滲む湖を見ながら、昔、三人でこの場所に訪れたこと、最近のこと、他愛もない話を交わしていた。
「蒼井、先に戻ってていいよ」
「なに言ってんだよ。こんな暗いのに危ないだろ」
「……お願い。もう少しだけ、ここにいたいんだ。ひとりで、考えたいことがあるの」
その声が、あまりにも必死だったので、蒼井は渋々頷く。こうなって、彼女が何かを諦めたことは一度もないのだ。
「ちゃんと、スマホですぐ連絡とれるようにしとけよ」
「わかってる。ありがとう」
蒼井は、仕方ないなと肩を竦めて、すぐ近くに立っていた夏の横を通ってペンションへと戻っていった。夏が、ゆっくりと神谷の隣に歩いていく。座ったままの彼女の横に立つ。