愛の歌、あるいは僕だけの星

 涙を拭ってあげられないのが悲しい。けれど、これだけは分かる。彼女がつらくて、涙を落とせば、きっと蒼井が涙を拭ってくれるだろう。頑張って、頑張って、夢を叶える神谷のことを、きっと蒼井は待っていてくれるに違いない。

 誰かの代わりを、誰かがすることなんて、出来ないけれど。その悲しみを少しずつ、優しさで埋めることなら出来るから。

「ねえ、夏」

『なあに?』

 今は、自分の手のひらで涙を拭った神谷が、名前を呼ぶ。

「私、夏のことが大好きよ。今日だって、本当はあんまり乗り気じゃなかったんだけどね、夏と一緒に来た場所だったから。あ、蒼井には内緒ね」

 くすくすと泣き笑いをする。

「あんたのこと、心配なんてしてないよ。夏ってば、抜けてるように見えても案外ちゃっかりしたところあるから、天国でもうまくやっているよね」

『……ごめん、実は四十九日もとっくに過ぎて、まだレンゲの隣にいるんだけど……』

「ただ、ずっと思ってたの。夏に、心残りはなかったのかなあって」

 その言葉を聞いた瞬間、どくり、すでにとまっているはずの心臓が、大きな音をたてた気がした。
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