愛の歌、あるいは僕だけの星

「会長、大丈夫ですか? もう遅いですし、俺たちも……」

「蒼井、ごめん。俺、ちょっと忘れ物したみたい」

「え、これから取りに行くんですか? 一緒にいきますよ」

「大丈夫、場所は分かってるし。さんきゅ、蒼井」

 蒼井は、まだ何か言いたげだったけれど、それを振り切るようにして銀也は湖へと走り出した。

 先ほど通った道を、息を切らせながら走る。嫌な予感がした。以前神谷から、親友である夏と喧嘩別れをして、仲直りが出来なかったことを後悔してるんだという話を聞いた。思い出のこの場所で、夏の記憶を呼び起こす何かが、ふとしたきっかけがあったんじゃないだろうか。

 不安で仕方なかった。自分に黙って、消えてしまうんじゃないかとか、そんなことばかりが頭に浮かんでは消えていく。

(約束、したし)

 夏がそんな薄情なことをするわけないと、銀也は必死に自分に言い聞かせる。けれど、どうしたって不安な気持ちはぬぐえない。
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