愛の歌、あるいは僕だけの星

 全速力で走て、肺が痛い。けれど、苦しいのはもっとその奥だ。湖までの道は、こんなにも長かっただろうか。走っても走っても、夏がいるだろう湖が見えない。汗が一筋、眉間を流れ落ちる。

 どうしてだろう、おかしいな。今、夏をひとりきりにさせたくない。なんの確信もないただの予感が、銀也の背中を強く押した。そうして走り続けたその先に、薄らと水面が見えた。そこに飛び込むようにして走る速度をあげた。

「……っ!」

 畔に立ち、湖を見つめている夏の後ろ姿があった。
 小さな背中。月明かりに透ける夏は、とてもきれいで、けれどいつもより存在感が薄く、ほたるの光のようにいまにも消えてしまいそうに儚く見えるのは、気のせいだろうか。
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