愛の歌、あるいは僕だけの星
最後の夏の言葉に、すぐに返事は出来なかった。すでに動き出した時間は止められない。砂時計のように、さらさらと零れ落ちていく。必死に止めようとしても、そのわずかな隙間を細かな砂が滑り落ちてしまうのだ。あがいても、あがいても、それだけはどうしてもかえられない。それなら。
「俺は、一秒でも長く、夏と一緒にいたい」
凛とした声が、この美しい場所に吸い込まれた。
「夏のことが好きなんだ。生まれて初めて、こんなにも人を好きになった」
くしゃりと、夏の顔が歪む。
嗚咽をもらしながらも、夏がゆっくりと言葉を紡ぐ。
『あたし……、死ぬ前、自然と、銀也を目で追ってた。それこそ、ほかの女の子たちと変わらない。同じように』
「思い出したのは、そのこと?」
銀也の問いかけに、夏は小さく首を横に振った。
『結局、何も思い出せなかった。レンゲの言葉で……、ずっと記憶にかかっていた靄が晴れたの。そのときの気持ちだけ、確かに感じた』
申し訳なさそうに笑う夏に、ずきりと胸が痛んだ。涙で濡れた頬は、この薄暗い夜の闇でもぼんやりと白く浮き立つ。