愛の歌、あるいは僕だけの星
ぽかんと口を開けて銀也を見つめる如月に、「ここで充分なら、別にいいけど」とついぶっきらぼうに返してしまう。けれど、如月は気にすることもなく小さく首を横に振ったあと、嬉しそうに銀也を見上げた。
『ううん、行きたい!ありがとう、藤原君!』
単なる気まぐれな提案だった。それなのに、心から嬉しそうににっこりと笑う如月を前に、とくりと小さく心臓が跳ねた。げ、なんだ今の。
(……不整脈?やっぱ、疲れてんのかな)
銀也は、そっと首を傾げた。
しんと静まりかえった薄暗い廊下。手探りで電気をつければ、白い蛍光灯に浮かび上がる道筋がどこか不気味だ。掌で屋上の鍵を弄びながら続く扉の前で腰を屈めた。
普段は鍵が掛けられ、生徒の立ち入り禁止の屋上は、代々生徒会に密かに受け継がれるスペアキーのおかげで、ある意味その利用は生徒会の特権だった。(大抵は、銀也が授業をサボる時に使われているのだけれど)
慣れた調子で鍵を差し入れれば、頑丈な鍵がかちゃりと小気味良い音を立てて外れる。重い鉄製の扉を押し開けば、そこには突き抜けるような濃紺の空が広がっていた。
今日は、雲一つない。宝石をばらばらと散りばめたような星空に、隣にいた如月が「うわあっ!」と声を上げた。
さすが幽霊、如月は給水塔の梯子を軽々とのぼり、一等高い場所から星を掴もうと手を伸ばす。