愛の歌、あるいは僕だけの星
「俺、一番だとか、特別だとか、嫌いなんだ。そういうの、うざいんだよね」
ちらと時計を見れば、針は午後の九時を指している。思っていたよりも、遅くなってしまった。
「宮崎さん、悪いんだけどそろそろ行かなきゃ」
「え?」
そういって、落ちていた制服を身につけて部屋から出ていこうとする銀也を慌てて引き留める。
「ねえ、待ってよ!ヤるだけヤって本当におしまいなの!?」
「……ヤりたいって言ったの、そっちだろ。他にまだ何かある?」
言葉を詰まらせる彼女の頭に、気持ちを落ち着かせるようにぽんと手のひらをのせる。
「ほんと、ごめん。今度何か埋め合わせするから。暇な日は、また誘ってよ」
普段であれば、相手が泣こうが喚こうがそのまま無視をして帰ってしまうところだけれど、なんとなく、そんな慰めにも似た言葉を口にしていた。彼女が、一瞬とても悲しそうな顔をしたのがわかった。
相手の顔を、そんな風に気にしたことなんて、そういえばこれまで一度だってなかった。ほんの数秒、その表情を見つめて。すぐに我に返って部屋を出た。
どんな時だって、何を意識せずとも当たり障りなく笑みを絶やさずにいられるのに。そのときの自分が無表情だったことなんて、気づけるはずもないのだ。