愛の歌、あるいは僕だけの星
くんくん。
アパートの廊下、ドアの前で自分の制服に鼻を寄せる。
「あっちゃー。やっぱり匂い移ってんなあ」
宮崎遙の纏っていた甘ったるい香水の香りがふわりと香る。少し前、如月に香水の匂いを指摘されてからは、セックスしたあとは毎度念入りにシャワーを浴びるようにはしていたのだけれど。やはり、洋服についたそれだけはなかなか消えない。
「……あいつ、なかなか敏感だもんな」
ふう、と溜息をついて上着を脱いで脇に抱えてから家の鍵を開けた。
『お帰りー、遅かったじゃん』
がちゃりと鍵が開く音がすると、部屋の奥から如月が声を掛けてくる。出迎えに来てくれることはまずない。大抵、テレビに夢中なのだ。
けれど不思議な事に、今日に限ってはその声がない。不思議に思って部屋を覗けば、そういえば明かりすら点いていなかった。