愛の歌、あるいは僕だけの星
「如月?いるんだろ」
がらりと押入を開ける。中は、もぬけの殻だった。
どきりと、心臓が小さく鳴る。手探りで電気を点ければ、白い光が静かに部屋をつつんだ。なんとも言い難い静けさだけがそこにある。
テレビのリモコンは、机の定位置に置かれたまま動いていない。如月は基本的にものを動かすほどの力はないけれど、リモコンを動かしたりボタンを押す程度のことならやってのける。きっとテレビ好きの執念に違いないと銀也は勝手に思っていた。
自分と同じくテレビっ子な如月が帰ってから一度もテレビをつけていないなんて考えられない。きっと、彼女はあれからまだ部屋に帰ってきてはいないのだ。
(なんだ、コレ……。この雰囲気)
広くない部屋を隅々まで探す。
風呂、洗面所、トイレ、もう一度押入れも。
やっぱり、いない。
とすんとベッドに腰を落とした。まるで、今までいた人間が突然いなくなったかのような。
「まさか……」
その先を、言葉にすることは出来なかった。
ゆっくりと部屋を見渡す。広くないはずの自分の部屋なのに、どうしてだろうこのときばかりはやけに広く感じるのだ。