愛の歌、あるいは僕だけの星

星づく夜



 早朝の冷ややかな空気にふるりと身を震わせながら、ようやくアパートへと戻った。一晩中歩いた所為で、足が痛い。けれど、それ以上にずしりと心が重たくて仕方なかった。

 もたもたと靴を脱ぎ、乱暴にポケットに突っ込んだせいでくしゃくしゃになった映画館のチラシとスマホを一緒にベッドの上に放り投げた。カーテンが閉められた薄暗い部屋を見渡して、小さく息をつく。

 足取り重くリビングに入り、そのままベッドへと沈み込んだ。立てかけられていた姿鏡に、自分の顔だけがうつる。髪は乱れ、目の下にはうっすらとクマが出来ている。

(悲惨な男がいる……)

 シャワーを浴びたいと思ったけれど、眠気が限界に近づいていた。朦朧とする意識の中で、銀也はあれこれと考える。

(起きたら、如月の家へ行く。その次は、映画館。あれ、待てよ、俺……、如月ん家の住所知らない。神谷さんに聞くしか……、ていうか神谷さんの電話番号も知らない)

 だめだ。
 本当に、何も知らない、動けないじゃないか。

「如月の未練って、結局なんだったんだろうな」

 もしかして、一緒に見た星空に満足して、成仏したのかもしれない。あいつ、結構単純そうだし。そんなことを思って、くつりと笑いが漏れる。

 もう少し、もう少しだけ。如月のことを考えていたいと思ったけれど、それ以上あらがうことも出来なかった。そうして、引きずり込まれるように深い眠りへと落ちていった。
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