愛の歌、あるいは僕だけの星
『襟元、グロスついてる!また朝帰りだったの?ねえ、藤原君。聞いてる?』
むっつりと黙り込んだまま、何の反論もしない銀也のことを、とうとう心配になったのか如月が下からのぞき込んだ。
『あの……、藤原君?どうしたの……』
銀也には、わかっていた。腹の底をぎゅうぎゅうと押さえつけられるようなこの苛立ちは自分勝手だ。それを吐き出して、ぶつけたって、仕方ないってわかっている。けれど、どうしたってそれを押さえることが出来ないのだ。
「どこいってたわけ。昨日、帰ってこなかっただろ」
吐き出す自分の声が、随分と冷たくなってしまう。幽霊のくせに、如月は少しだけそれに怯えているように見える。
『えと、ごめんなさい。自分の家に、帰ってました』
苛立っている銀也を前に、訳が分からないという様子で、如月はもごもごと言葉を濁らす。
「珍しいじゃん。おまえが、自分ちに泊まるなんて。昨日だって、そうそうにいなくなったみたいだし」
『うあ、ごめん……。ちゃんと、声は掛けたんだよ。掛けたんだけど、藤原君ぐっすり眠っちゃっててちっとも起きなかったんだもん』