愛の歌、あるいは僕だけの星

 
 町の外れにあるミニシアターは、昭和から続く赤煉瓦造りのレトロな外観だ。日曜日の昼間だというのに、あまり人も多くない。誰かと連れ立って訪れるというよりは、大好きな映画を心行くまでひとり堪能するために来ている客ばかりだ。

 チケットブースでは、年配の女性がひとりで受付をしていた。銀也がブースに立つとすぐに顔を上げる。

「いらっしゃいませ。1枚1800円です」

「2枚ください」

 当然のことのようにそう伝えて、さっさと会計を済ませる銀也に、となりで夏が大きく目を見開いた。

『……あの、藤原君。チケット……』

「別にいいよ。おごり」

『や、そういう意味じゃなくてさ』

 へにゃりと眉を下げる如月に、小さく笑う。本当に、彼女は考えていることがすぐに顔に出るなあと思う。

「如月、おまえ映画をタダ見するつもりだったわけ?」

『ち、違うよ。そんなつもりはないけどさ』

「じゃあ、いいじゃん。彼女もいなくて寂しい俺に付き合ってくれるってことで」

『……寂しいなんて思ったこともないくせに、よく言うよ。けど、ありがとう。藤原君』
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