この恋は、風邪みたいなものでして。


「ちょっと、子猫の救出してたらこんな汚れちゃった」

「ふうん。相変わらず」

柾は着ている黒のセーターの裾を伸ばしながら、溜息を零す。
その溜息の重さに何故かひやりとする。
何か、言いたそうなのがありありと伝わってくる。

「ご飯まだでしょ? 柾くんのところからシチュー貰っちゃったからお風呂でも先に入ってきたら?」
「そ、そーしようかな」
「柾君、ありがとうね」
家へ入る母の後を私も直ぐに追う。
「で、お前ら結局婚約は嘘なんだな」

逃げようとした私の服を掴み、柾がストレートに回りくどいこと抜きで言う。
「嘘だろ?」
「嘘と言うか、その、あの」
「嘘じゃなきゃ俺の挑発に、あんな風に牽制して来ないだろ」

嘘。

「柾、嘘ではないの。颯真さん、今、ちょっと言い寄られて困っているから私が婚約者のふりしてて、私も柾に告白されたでしょ? だから、その……」

真っ直ぐに私を見てくる柾を見たら、言い訳を並べてしまう自分が最低に思えてきた。
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