この恋は、風邪みたいなものでして。
「ううん。私がはっきり柾を断れないから、婚約者のふりをして貰ったの。嘘ついてごめんなさい。その、菊池さんに聞いた。柾が私の事色々考えて行動してくれてたって。それなのに、私、自分勝手でごめん」
カバンから財布を取り出して、昨日有耶無耶になってしまっていた少女漫画の金額が入ったポチ袋を取り出すと、柾に渡す。
「もう甘えないようにするね」
ポチ袋を受け取った柾が、それをじっと見つめながら低く唸るように言う。
「でも、婚約者のふりって、お前完全に片思い中じゃん。あんな腹黒い男の眼中にもないと思うぞ」
「颯真さんのこと悪く言わないでよ。腹黒くないよ。笑顔で受け流す感じが大人っぽくて素敵じゃん!」
私は本心からそう言ったのに、みるみるうちに柾の顔が曇りだした。
「やっぱ、あいつ止めとけ。お前は何も考えずに俺にしとけよ」