この恋は、風邪みたいなものでして。
症状四、それは風邪みたいなものでして。

大事な事を呑気に忘れたまま、私は颯真さんを見ては胸をときめかせていた。


昨日と同じ早番で、ずっとレストランの入り口を見てそわそわと落ち付かなかったのに、彼は今日は来なかった。

食べ終わった食器を運ぶ手が重たく感じる。
あと10分。10分だけでも珈琲を飲みに来てくれたらいいのに。
ラストオーダーを過ぎた時点で、私の身体がシュルシュルと萎んでいくようだった。
今日の夜、会えるのに。
会えるのに、欲張りになっていってる。

「ねえ、本読んだ?」

最後のお客もレストランから出て、ランチまでに一時間だけCLAUSEすると、ガンガンと食器を下げ出す。

ランチは、泊まっていない方でも気軽に食べられるので、またビュッフェ形式だけど人は朝よりも多い。

たまには贅沢なランチを、と意気込む主婦層から行きつけにしてくれている上品な常連さんまで。

お昼の時間は来てくれても気づかないかもしれない。

菊池さんも今しかないと思ったのか、早く本の感想を共有したいのかテキパキ手は動かしながら聞いてきた。

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