この恋は、風邪みたいなものでして。

「本、ちょっと読みました。処方箋は読んで欲しくなさそうだから媚薬って奴からですが」

「何でー!? 処方箋がおススメよ。この前の授賞式でも続編を書いてますって言ってたし」

「そ、そうなんですか?」

授賞式は忙しいしミスもしたしで、あまり内容を聞いていなかった。
あの時は、颯真さんが人気作家だって言うのも知らなかったし。

「続編を書くってわざわざ報告して、そのモデルかもしれないピアニストがお祝いのピアノを弾くって本当に怪しいよね」

それについては、真相を知っているから心はざわざわしない。
お皿を割らないようにお盆に乗せながらも、気になることと言えば。

「菊池さん、ピアスホール開けてますよね」

控え目なピンクの花が煌めいている耳を見る。
ネイルと同じ色で、お洒落に気を抜いていないのは見習わなければとも思う。

「うん。怖くて一番小さな穴だけどね。イヤリングよりも落としにくいし」
「落としにくいんですか!」

私も怖くて開けようとも思ったことが無かったからつい、まじまじとピアスをみてしまう。
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