この恋は、風邪みたいなものでして。

「嘘っ」

「偶然かもしれないけど、でも、モデルピアニストさんが居たワケでしょ?」


真っ青になった菊池さんが、急に両手を合わせて『ごめんっ』と頭を下げてきた。
「今のなし! ずっと前に車に落としたものかもしれないし、それに、今は付き合っていないのに! 私、無神経だった。変な事を気づいてごめんね」

「え? え?」

泣きだしそうに謝る菊池さんに、私の方が慌ててしまう。
つまり?
「このピアスは、茜さんが落としたものってことですか?」
「そうかもね。で、颯真さんッてモテそうだからわざとピアス落として他の子を牽制したり」
「そんな事するんですかっ」

牽制のつもりで落としたピアスに、私はまんまと不安に駆られているんだ。

「華寺さんは、颯真さんと両思いではないの?」
「両思いだなんてとんでもないです。本当にただの憧れ――でしたし」

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