この恋は、風邪みたいなものでして。
憧れだった。
笑顔も素敵で、何をするのもスマートだし。
誰よりも優しいし、皆が気をつけろと言っている意味が分らない。
今は、――まるで風邪を引いた様に。
彼を思うと体温が上昇してしまう。
「彼だけなんです」
止まらない体温上昇に頬を押さえる。
「ヤス君のこと、理解してくれたのは、彼だけ」
浮かれる私に、菊池さんが心配げに瞳を揺らし、何かを言いかけた。
「華寺さん、ルームサービスお願い」
店長が調理場から私の名前を呼んだので、菊池さんが言いかけた言葉を私は聞かないまま、お辞儀をしその場を離れた。
気になったけれど、ルームサービスは時間との戦いなので、お互い目配せだけで仕事に気持ちを切り替えた。
「これ、最上階のスイートルームのお客様に持っていって」
ルームサービスの朝ランチが乗ったワゴンを渡された。
どう見ても、これは一番高いコースだ。
しかも二人用。
「私で良いんでしょうか?」
まだスイートルームへルームサービスを運び、テーブルへ並べたりメイキングしたりは練習中なのだけど。