この恋は、風邪みたいなものでして。

「あの人が貴方にッて言ってるから、私には逆らえないのよ」
「え?」
「職権乱用よね。ま、忙しい時間帯に菊池さんより貴方が行ってくれた方が助かるのも本音だから」

店長から珍しく毒が見えた。
やっぱり授賞式とかで残業が続いたせいもあり、疲労が伺える。
ごちゃごちゃ文句言わず、出来なかったら素直に颯真さんに謝ろう。

「分りました! 行ってきます」

会える口実ができたのも嬉しい。
仕事中なのに私は浮かれて、背中に羽が生えたようにエレベーターへ向かった。

二人分って、もしや颯真さんって意外と大食いなのかな。

まだ暖かいスープや焼きたてのパンの匂いもなんだが今から颯真さんに会えると思うと、くすぐったく感じてしまう。

本当に私現金だ。


エレベーターが降りてきて乗りこむ瞬間、ロビーに入ってきた女性に見覚えがある様な気がしたけれど、浮かれた私の思考はシャットダウンしてしまっていた。

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