この恋は、風邪みたいなものでして。
「え、調律師さんもこのピアノで?」
まさか同じピアノ教室だったとか?
質問しようとしたけれど、急にピリリとした緊張が走った。
全ての鍵盤を押し終えた後、調律師さんの眉間が深くなった様な気がしたから。
「前回、先生はどんな調律をしたんだろう。ちょっとこれは酷いな」
確かに、違和感はある。
これで弾いたことはなかったけれど、ディナーで弾いてくれる人たちも首を傾げることが多くなっていた。
調律師によって腕は違うし好みも違う。
逆に弾きに来てくれる方で有名なピアニストは専属の調律師が調節してくれたりする。
それほど、繊細で大事なんだ。
「俺はもっと甘めが好きだけど、どうかな」
「はい、お願いします!」
道具を持ち、心地のいい緊張感の中、楽しそうに弄りだした。
何だか、この人、本当にピアノが好きなんだろうなって感じ。
「整調はこんな感じかな。女性が弾くなら柔らかい方が弾きやすいと勝手に解釈してるんだけど」