この恋は、風邪みたいなものでして。
最上階のスイートルームに到着し、ブザーを鳴らした。
二回目だけど、やっぱり緊張する。
「わかば?」
確認もしないまま開けたのは、いつもきっちりしている颯真さんじゃなかった。
ネクタイもない、ボタンも二つほど開けて、きっちりした前髪が下ろされている。
「わかば?」
もう一度聞かれて、慌ててワゴンを指さす。
「や、あの、テーブルにセットさせてもらいますね」
じろじろと見てしまったら失礼だよね、と視線を外したけど隙だらけな颯真さんの姿がちょっとだけ可愛い。
そう思ってしまった自分が恥ずかしい。
ますます顔が合わせられなくなる。
「あーやっぱ朝日が目に痛い。髪だけでもシャワーですっきりしてくる」
「はい、セットしたらすぐに帰りますので」
ワゴンを押していたら、颯真さんは前髪を掻きあげて微笑む。
「やだ。終わるまで帰らないでね?」
「!?」
上機嫌なまま、奥のバスルームへ入って行くけど、私は沸騰寸前のヤカンみたいに真っ赤になって立ちつくしてしまった。
あんな可愛い笑顔、反則だ。