この恋は、風邪みたいなものでして。
「颯真さん、通して下さい」
「何が変な事なの?」
後ろから彼の声がするのに、色んな気持ちがぐるぐる回って答えが出ない。
サングラスケースを見たら、昨日のピアスが思い浮かんだ。
入ったことが無かった此処に、茜さんの痕跡が見える。
此処だけじゃない。昨日の車にも茜さんは乗っている。
そう思うと、心がざわざわとする。
ただ一方的に思っているだけだし、婚約者のフリの立場である私にはこれ以上聞けない。
なのに、一番近くで颯真さんを見てるせいで、私はきっとおかしいんだ。
「私、変なんです。皆が、颯真さんの事を腹黒いとかいうから、信じてるって言ったのに、色々勘ぐって、最低です」
「腹黒い? や、間違っていないじゃん。君を婚約者のフリさせて遠回しに諦めさせようとしたし」
腹黒いと言われ、何故か颯真さんは笑いを堪えるぐらいで傷付く素振りはない。
いや、でも優しい人だから無理をしているだけかもしれない。
「どうせ君のレストランの店長でしょ? あの人は色々と俺の事知ってるしね。当たってるよ」