この恋は、風邪みたいなものでして。


「ごめん、からかいすぎた。反応が可愛いて」

エレベーターを閉じようとしても、両手で押さえられていた。
からかうほど、自分の無知さは面白かったんだ。
視線を合わせられないけれど、濡れた前髪から滴り落ちる水が床に落ちて染みていく。
「いえ。私が変な事を言ったんです」
「だから変じゃないって。俺に興味を持ってくれたんだろ?」
「――仕事があるので、エレベーターを押さえる手を外してくれませんか」
「その真っ赤な目で行くの」
今すぐ離れたいのに。
今にも恥ずかしさで泣きだしそうなのに。

なんで颯真さんはその手を離してくれないのかな。

一人になりたい。

「颯真さんってこんなに意地悪な人だったんですね」
悔しくて睨んでやろうと思て見上げたら、その表情に思わず息を飲む。

あまりにも甘く笑っているその姿に、動揺してしまう自分が大嫌いだ。


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