この恋は、風邪みたいなものでして。
ついつい、ちらっと読むだけのつもりが読みふけっていた本を閉じて顔を上げた。
菊池さん待ちで、既にテーブルにはお弁当を並べていた。いつでも食べられるようにスタンバイ中。
なのに、休憩室の扉の前にいたのは、店長だった。
「スイートルームの我儘王子が、ルームサービスを食べ終わったから取りに来てほしいって」
「えっ」
「16時に上がっちゃっていいから、帰りについでに取りに行ってもらってもいい?」
ルームサービスなんて、二時間もしないで食べ終わって下げるのに、昼を跨ぐなんておかしい。
「お昼もルームサービスだったんですか?」
「そ。打ち合わせに時間かかってるんじゃないかしら。ほら、受賞後の作品だし気合い入れて売るんじゃない?」
「そうなんですか……」
さっきうっかり泣いてしまったし、もう会いたくない気分だ。
心では、さっきのは白昼夢で次に会うときは優しい彼だって何処かで夢を見ているけど。
「どれが本業が分らないわよね。戻ってくるなら、こっちの経営に専念してほしいけど」
「経営?」
店長の疲れ切った声と、ピリピリした空気に、聞いてはいけないと思いつつも、上の空だったせいで聞いてしまった。
「お待たせー。ついでに華寺さんにココア買ってきたよ―」