この恋は、風邪みたいなものでして。
ナイスタイミングで現れた菊池さんが私と店長を不思議そうに交互に見る。
「どうされたんですか?」
「華寺さんに残業をお願いしたの。じゃ、貴方も自分で聞いてみなさいね」
「えええ、店長、待って下さいよ」
「優しい男が優しいとは思わない。迂闊過ぎよ、あなた」
「名言が出だね。どうしたの?」
菊池さんが入り口を塞いだので、店長を追い掛けることも出来ず、またこれ以上考えることを増やしたくなくて、――追いかける気力が湧かなかった。
「店長が、颯真さんに対して厳しいんです……」
「あはは。店長は華寺さんの研修係もしたし娘のように心配なんじゃない?」
「娘って、店長はまだアラサーじゃないですか」
「じゃあ、颯真さんが好きとか元カノとか?」
「……それは、これ以上考えたくないなあ」
でも、颯真さんほど格好良い人が恋人がいなかったはずないし。
居なかった期間がなさそうな気もする。
彼の本業は、恋愛小説家で、調律師は小説家になる前だったッて言っていた。
それ以外にも何か経営までしてるなんてどれだけ才能がある人なんだろう。
「悩めば悩むほど、謎しか出て来ない」
「それに朝からずっと仕事で頭が回転しないんじゃない? 糖分糖分」