この恋は、風邪みたいなものでして。
一歩入ってから、最上階が押されたボタンを見たお客様は私を見る。
それは、サングラス姿の茜さんだった。
サングラスに、真っ赤なブラウスと白のパンツ姿。
着飾らない洋服が、茜さんのスタイルの良さを際立たせている。
「貴方、この前のウエイトレス」
「は、はい。この前は本当に失礼致しました」
身長も高くて、上から見下ろされたら心臓が止まりそうだった。
直ぐに頭を下げたけれど、何故か彼女はそのままエレベーターに乗り込んで来た。
最上階以外のボタンが押されていないのに。
「まあ、いいわ。その件は今日、ちゃんと颯真も謝罪してくれたし」
――えっ
「あは。顔色が変わったね」
私の動揺した姿を見たかったのか、満足そうだ。
でも、確かにそう。
何故彼女が此処にいるの?
「貴方って、颯真の事何も知らないのね。今、私は颯真の父親に会ってたのよ」
勝ち誇った顔で彼女が私を見る。
居たたまれなくて壁に顔を背けた。
誰か乗って来て欲しい。
二人きりの重たい空間では息が吸えない。
「颯真が父親に婚約者をもう紹介してるみたいよ。誰か知ってるって言ってた。でも貴方のその様子じゃ、どうやら本当の婚約者は違う人みたいね」