この恋は、風邪みたいなものでして。
震える声は、自分でも笑ってしまうほど弱々しかった。
絶景が見えるスイートルームで、窓に映った自分の顔は、この場所には不似合いだった。
似合わない。
幸せそうな顔もしていないと、茜さんに指摘されるほど。
「風邪を、引きました。――用心もしていなかったから、きっと悪化したんです。熱もあるし、息をするのも苦しいんです」
ワゴンを握り締めながら、そう言うのがやっとだった。
「なので、今日は家に帰ります。ごめんなさい」
自分で拾っておきながら子猫の容体よりも、自分の心が傷つくのを恐れた私は最低だ。
そんな自分を、気づかれたくなかった。
「……確かに具合が悪そうだよね。病院に連れていくから下で待ち合わせしようか」
「いえ。先輩が送ってくれるから大丈夫です」
菊池さんならとっくにエステへ行ってしまったから嘘だけど、今、この状況から逃げ出せるなら何でも良かった。
「本当に?」
「はい。颯真さんもお仕事頑張って下さい」
深く頭を下げて、すぐにドアを閉めた。