この恋は、風邪みたいなものでして。


店長に挨拶する時も、どんな顔をして良いのか分からずそそくさと犯罪者の様に逃げ出して帰った。

ざわざわする心のまま家に帰りたくなくて、自分の家の駅で降りてからまた本屋へ向かった。

今度は本屋のカフェで、颯真さんの本を読もうと珈琲を注文し本を広げる。

広げても、全く頭に入って来なくて、開いても開いても頭は真っ白になって行くばかりで読むのを止めた。

いや、こんな事をしている場合じゃない。

今なら颯真さんも仕事で行かないはず。
今なら子猫の様子を見にいける。

珈琲を飲み干そうとして、砂糖も入れたなくて苦くてあたふたして、シロップに手を伸ばすと、視界にある人物が飛び込んで来た。


「柾」

「残念。もう少し、百面相する姿見たかったんだけど」

その言葉は、やはり柾らしく意地悪で刺がある。
それが、私は親しみを込めていった意地悪だと今日までは気づけなかった。


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