この恋は、風邪みたいなものでして。


「なんで此処にいるの? 今日約束は?」

珈琲を片手に正面に座って来たので、つい本で顔を隠す。
すると、柾は携帯を弄りながら頬杖をつき、私には目もくれないで話し出した。


「ああ、飲みね。外回りが早く終わりすぎたからどっかで時間潰そうとしてたらお前が死にそうな顔で此処に吸い込まれて行くから見に来ただけ」

「ちょっと風邪をこじらせただけだよ」

「風邪、ねえ」

私の言葉を口の中で転がすと、少しだけ楽しそうに唇を上げた。
そう言う奴だ。
私が困ってたり泣きだしそうなのがきった見ていて楽しいんだ。

「お前、ここで時間つぶしたら帰るの?」
「ううん。昨日救助した猫を見に行こうかなって思ってる」
「ふうん」
柾はコートのポケットにスマホを仕舞い、珈琲を一気に飲み干す。
するとそのまま私の珈琲も奪い、顔を上へ上げて此方も一気に飲み干す。

余りの突然の事で抵抗も出来なかった。

「柾!」
「じゃあ今から行こう。俺も時間あるから一緒に行く」
「柾は駄目。今から行って帰ったら待ち合わせにギリギリになっちゃう」

柾は知らない。
菊池さんが柾の為にどれだけ今頑張っているかを。
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