この恋は、風邪みたいなものでして。
結局バスで駅から10分の場所まで一緒に揺られる。
帰宅ラッシュ前で、女子学生が乗っている中、女の子たちの視線は柾に集中している。
見た目はやはり柾も格好良いんだと思う。
隣に並ぶと、足の比率がおかしいし。
「あの発表会の日、俺は既にお前が好きだった」
そんな視線なんて全く気にもしないで、喋り出す。
触れ違ったお互いの心の答え合わせみたいな会話を。
「普段、ピアノのレッスンしてたら邪魔したり怒ったりしてたのに、なんで発表会は見に来たの? おばさんに言われて仕方なく?」
あの時だけ普段は着もしない紺色のスーツなんて子供のくせに着て、おばさんの後ろで携帯ゲーム機を片手につまらなさそうにしていた。
私も、意地悪されるのが怖くて母の後ろの隠れてたのに、親が御礼を言いなさいと私を柾の正面に突き出してきた。
その時私は、ゴールドシャンパンカラーのパニエを履いた、ふんわりしたドレスを着て、髪に御花の髪飾りをつけていた。
柾の前に無理矢理引っ張られた時、スカートがふわりと舞ってまるでお姫様の様で感動した。
『何わらってんだよ。ぜんぜんかわいくねえ』
そう大声で言うと、柾は私の髪飾りをもぎ取った。
「うーーん。好きならそんなことするの?」
今思い出しても、好かれている要素が見当たらない。