この恋は、風邪みたいなものでして。


「いっつも俺の後ろを付いてきて、一緒に遊ぼう遊ぼう五月蝿かったお前が、ピアノ始めた途端、俺に纏わり付かなくなったんだぞ」

「柾は面倒くさがって遊んでくれなかったくせに」

「女と人形遊びだのままごとだのダセえだろ。俺よりもピアノばっかのお前に、子供心にムカついていたんだ」

「そうだったんだ」


「あの発表会の日、ドレス姿のお前が可愛くて、あんなことしてしまって、――悪かったな」

「謝るの、遅すぎ」

五歳の時の話だから、もう17年も前の話。
それなのに私たちは、まるで昨日のことの様に、鮮明に思い出して過去に浸った。
私は、もうあの時の事は怒っていない。
バスの乗車ボタンを押しながら、穏やかな気持ちでそう思う。

「あの時の柾の意地悪が無かったら、ヤス君と会えていなかったと思うと何だか感慨深いって言うか、不思議」
降りながらそう言うと、柾の足が止まった。

あと数メートルで子猫が入院している病院なのに。


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