この恋は、風邪みたいなものでして。
「お前、猫をくれた人の事は覚えてるのか?」
「うん。とっても優しい人だったよ。優しくて格好良くて、指が長くて」
「そいつは、ヤスが亡くなったことを知ってる?」
「……あっ」
そうだ。
ヤス君のお葬式後に、親に手紙で報告しようねと言われていた。
あの時は、ヤス君の事で頭がいっぱいで、何も深く考えられなかった。
「で、もう一つ」
「もう。次から次へと何―?」
「鏡花(きょうか)から聞いたんだけど」
鏡花と言われ、一瞬誰か分らなかった。
「お前、あの小説家が好きなんだろう」
「え、あ、あああー! 鏡花って菊池さんかあ」
そうか。
柾もあの人が小説家だと知ってしまったんだ。
「お前もあいつに嘘付いてるが、あいつもお前に嘘をついてるぞ」