この恋は、風邪みたいなものでして。



「嘘?」

「お互い嘘を付くのはワケがあるかもしれないが、お前の嘘は、その小説家を騙す嘘だ」

「待って。私が颯真さんに嘘って」

「あいつは、ヤスを猫じゃなくて人間として認識してるんだろ。お前が亡くなった恋人を忘れられないって思ってる」

――俺は君の傷が癒えるまで待つよ。
そう言って颯真さんは、柾の強引な告白から助けてくれた。

確かに、颯真さんにはヤス君を猫だとは伝えていない。

だってヤス君は猫以上に大切な存在だったし、色々とあの時は混乱していたし。


「猫だって伝えたら、彼は呆れるのかな」

『なんだ。ただの猫でそんな風に泣いていたの?』

柾のように、そう馬鹿にするのかな。

今日みたいに私をからかって面白がって、苛め過ぎたら謝って?

猫だと告げて、真実を行った時に彼がどんな表情をするのかが見えなくて怖い。


空に浮かぶ月が、雲で覆われて隠れていくみたい。

「私、婚約者の立場を偽れるこの位置が一番好きだから、今あの人にがっかりされるのは辛い」

「だったらお前は、大切なヤスのことを偽るのか。本当に大切な存在でも、恋愛を優先にするんだよな」
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