この恋は、風邪みたいなものでして。


やっぱり柾は意地悪だ。

そして――こんなに私の事を考えてくれているんだ。

「でも、真実を言ったら魔法が溶けてしまう」

「魔法?」

「もう彼の隣に居られなくなる」

もう婚約者のフリをする理由が、何処にも見当たらない。
知らないふりをしていないと、隣に居られないの。

「それって辛くねえの?」

呆れたように言われて、私の頬がカッと羞恥で赤く染まる。

そうだよね。
きっと今の私は、痛々しい。
縋ろうと必死で、嘘を身に纏って痛々しい。
でもどうしたらいいのか分らない。
自分は店長のかわりだとしても、
店長だけじゃない。彼の回りには茜さんみたいに素敵な人がいる。

あの茜さんを本の登場人物のモデルにしたとしても、彼自身は恋に落ちなかったのに、私は茜さんほど魅力は無い。
彼が今、私に魅力を感じる場所は無い。

ただ恋人を亡くして傷付いている私だから優しくしてくれているだけ。


ソレが現実なんだ。
< 144 / 227 >

この作品をシェア

pagetop