この恋は、風邪みたいなものでして。
着信相手は、颯真さんだった。
「出て良いよ。俺も遅れるかもって鏡花に一応連絡入れるし」
メッセージを打ちだした柾から少し距離を取ってから、電話を取った。
『もしもし』
「もしもし……」
声を聞いたら、心臓が飛び跳ねたので、本当に私の思考は短絡なんだと実感できる。
目の前の動物病院に子猫がいるのに、私の気持ちはもう電話の向こうの颯真さん一色だ。
なんて酷い奴だろう。
『仕事がひと段落ついてさ、わかばの風邪の具合が気になっちゃって。大丈夫? 病院は行った?』
「病院は、行ってませんっ」
『何で? 歩けないほど酷くなった?』
私を心配し労わる声が、嬉しい。
そんな優しい言葉一つで私の心臓を握る貴方が、私は本当に好きなのかもしれない。
『わかば?』
丁度、バスが来て、一人降りたので私は更に端へ避けた。
『時間調節の為、5分停車します』
『今、まだ外なの?』
「あの、私、病院に行っても処方箋がない風邪なんです!」
全然、颯真さんの質問の答えになっていない言葉に、遠くで柾が声を殺して笑った気がする。
でも私はその言葉を言い放つだけで、汗がだらだらと流れてきたので、間違えなくこれは風邪だ。