この恋は、風邪みたいなものでして。

店長がすかさず来てくれたが、彼は私をお姫様抱っこで抱えながら出口へ向かう。

「具合が悪くなったのか貧血のようです。スタッフルームへ」
「まあ。すいません。こっちです」

小さく何度も謝る私を誰も責めない。

スタッフルームに彼が運んでくれたソファに寝かされながら、私はヤスくんを思い出して大声で泣いてしまった。



「華寺さん?」

「ごめんなさい。風邪なんて嘘なんです。ヤス君がっヤス君が死んで私、涙が止まらなくて泣いてばっかで、ごめんなさい。ごめんなさい」

「いいのよ。私が頼まれて貴方をこの役にさせたの。思い出させてしまってごめんなさいね」

店長の言葉は、私の気を紛らわせるための言葉だと気に留めなかった。

いつの間にか消えてしまった彼が私の何だったのか。
もう少し私の心の余裕があればきっとあの連弾で誰だが見つけられただろう。

今日、私が見落としたモノは、きっとこの先私と彼を擦れ違い、迷わせる。
全ては私の弱さのせいで。


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