この恋は、風邪みたいなものでして。

「どうぞ」
「ありがとうございます」
おずおずと乗りこむと、ドアを優しく締めてくれた。

そのまま颯真さんは車に乗り込んで、じっとハンドルを見ている。

「何処に行こうかな」
「えっと」
「今、二人っきりになるのは避けたい。ちょっと理性が押さえられないからね」
「はい?」
何故理性が押さえきれないのだろうか。
良く見えば、ハンドルをぎゅっと強く握っている。

そんなに強く握る必要なんてないはずなのに。


「あの、ホテルのBARにでも戻りますか?」
私の提案に、にたっと颯真さんが顔を歪めた気がする。
そのにたっはどんな意味だろう。

「そうだね。じゃあ、今日は『シャングリア』の方へ行こうか」

「え、隣!?」

「向こうの方も顔が割れているから、悪いことができないし丁度いいか」
私の話も聞かずに、そのまま車を発進させた。
颯真さんの言葉の裏に隠された意味を、馬鹿な私はまだ理解できていない。

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